「独立するなら、個人事業主と会社、どっちがいいんだろう?」
起業を考えたとき、多くの人が最初にぶつかるのがこの問いです。ネットで調べると「利益が○○万円を超えたら法人」といった話がよく出てきますが、実際には税金だけでなく、社会保険、消費税、日々の経理や決算の手間まで含めて考えないと判断を誤ります。
この記事では、個人事業主と法人の違いを2026年9月時点の制度をもとに整理し、どちらで始めるべきかの目安をまとめました。
なお、税金の計算は個別の状況によって大きく変わります。最終的な判断は税理士などの専門家にご相談ください。
1. まずは全体像:個人事業主と法人の違い
項目 | 個人事業主 | 法人(株式会社・合同会社) |
|---|---|---|
始め方 | 開業届を出すだけ | 定款作成・登記が必要 |
設立費用 | ほぼ0円 | 株式会社:約20万円〜/合同会社:約6万円〜 |
利益にかかる税金 | 所得税(5〜45%)+住民税(10%)+個人事業税 | 法人税・地方法人税・法人住民税・法人事業税 |
赤字のときの税金 | 原則かからない | 法人住民税の均等割(最低でも年7万円程度)がかかる |
社会保険 | 国民健康保険+国民年金 | 社長1人でも健康保険+厚生年金に加入義務 |
自分への報酬 | 事業の利益=自分の所得 | 役員報酬として給与を受け取る |
赤字の繰越 | 最長3年(青色申告) | 最長10年 |
年に一度の手続き | 確定申告 | 決算・法人税申告 |
経理の難易度 | 比較的シンプル | 高め(決算書・申告書の作成) |
対外的な信用 | 取引先によっては不利なことも | 法人との取引が前提の企業にも対応しやすい |
ざっくり言えば、個人事業主は「始めやすく、身軽」、法人は「コストと手間はかかるが、利益が増えると税金面で有利になりやすく、信用も得やすい」という関係です。
ここからは、判断に大きく関わるポイントを順番に見ていきます。
2. 税金の違い
2-1. 個人事業主は「稼ぐほど税率が上がる」
個人事業主の利益(事業所得)には、所得税がかかります。所得税は所得が増えるほど税率が上がる累進課税で、税率は5%から最大45%まで7段階あります。
これに住民税(一律10%)が加わり、業種によっては個人事業税(事業主控除290万円を超えた部分に原則3〜5%)もかかります。
利益が小さいうちは税率も低いのですが、利益が伸びると一気に負担が重くなるのが個人事業主の特徴です。
2-2. 法人は「税率がほぼ一定」
法人の利益には法人税がかかります。資本金1億円以下の中小法人の場合、税率は次のとおりです。
- 年800万円以下の部分:15%(本来は19%。2027年3月31日までに開始する事業年度に適用される特例)
- 年800万円を超える部分:23.2%
実際にはこれに地方法人税、法人住民税、法人事業税が加わりますが、個人の最高税率(住民税込みで55%)と比べると、利益が大きくなったときの上限はかなり低く抑えられます。
2026年の変更点:防衛特別法人税 2026年4月1日以後に開始する事業年度から、法人税額に4%を上乗せする「防衛特別法人税」が始まりました。ただし年500万円の基礎控除があるため、課税所得がおおむね2,400万円程度までの中小法人であれば、実際の負担は発生しない設計です。設立したばかりの会社のほとんどは、影響をあまり気にしなくてよいでしょう。
2-3. 見落としがち:法人は赤字でも税金がかかる
法人住民税には、利益に関係なくかかる「均等割」があります。資本金1,000万円以下・従業員50人以下の会社なら、自治体にもよりますが年7万円程度が目安です。
売上がまだ立たない時期でも毎年かかる固定費なので、事業計画に入れておきましょう。
2-4. 法人の本当の節税効果は「役員報酬」にある
法人化で税金が下がる一番の理由は、法人税率の低さそのものよりも、利益を「会社の利益」と「社長の給与(役員報酬)」に分けられる点にあります。
役員報酬は会社の経費になり、受け取る社長側では給与所得として扱われます。給与所得には「給与所得控除」という、実際にかかった経費とは関係なく差し引ける控除があるため、個人事業主として同じ金額を稼ぐよりも課税される所得を圧縮できます。
さらに、家族が実際に会社の仕事をしているなら、その家族にも役員報酬や給与を支払うことで、所得を分散させることも可能です。
ただし、役員報酬には注意点があります。
- 原則として毎月同額で支払う必要がある(定期同額給与)
- 金額を変えられるのは基本的に事業年度開始から3か月以内
- 期の途中で「利益が出たから増やす」「足りないから減らす」は、原則として経費にできない
つまり、法人では期首に1年分の利益をある程度見通して報酬を決める必要があります。ここが個人事業主との大きな違いです。
3. 社会保険の違い:法人化で「手取りが減る」ケースもある
税金の比較だけで法人化を決めると、ここで想定外の出費に驚くことになります。
個人事業主
国民健康保険と国民年金に加入します。国民年金は所得に関係なく定額、国民健康保険は所得に応じて決まります。
法人
社長1人の会社でも、役員報酬を支払うなら健康保険と厚生年金への加入が義務です。保険料は役員報酬の額に応じて決まり、会社負担分と本人負担分を合わせるとおおむね報酬の3割程度になります。
会社と社長個人を「ひとつの財布」として見ると、この保険料は丸ごと出ていくお金です。そのため、利益がそれほど大きくない段階で法人化すると、税金は減ったのに、社会保険料を含めたトータルの負担はむしろ増えたということが起こりえます。
一方で、厚生年金は将来受け取る年金が国民年金より手厚くなりますし、病気やケガで働けないときの傷病手当金など、保障面でのメリットもあります。単純な損得だけでなく、保障も含めて考えるのがおすすめです。
4. 消費税の違い:2026年は大きな転換点
設立直後の「免税」の考え方
個人事業主も法人も、原則として2年前(基準期間)の課税売上高が1,000万円以下であれば、消費税の納税が免除されます。
法人の場合、資本金1,000万円未満で設立すると、1期目は基準期間がないため原則免税です(2期目は1期目の前半6か月の売上や給与の額によって課税になる場合があります)。
このため、以前は「個人事業主として2年間免税を受けたあと、法人化してさらに免税期間を得る」という考え方がよく紹介されていました。
インボイス登録をすると話が変わる
ただし、取引先の都合でインボイス発行事業者に登録すると、その時点から課税事業者になり、免税のメリットはなくなります。BtoBの事業では、実質的に登録が必要になるケースも多いでしょう。
2割特例の終了と「3割特例」
インボイス登録で課税事業者になった小規模事業者向けに、納税額を売上にかかる消費税の2割に抑えられる「2割特例」がありましたが、この特例は2026年9月30日を含む課税期間で終了します。
その後の激変緩和措置として、2026年度の税制改正で「3割特例」が新設されましたが、対象は個人事業主のみで、法人は使えません(2027年分・2028年分の申告が対象で、基準期間の課税売上高1,000万円以下などの要件があります)。
つまり、2026年10月以降に法人を設立してインボイス登録をする場合、原則課税か簡易課税で消費税を計算することになります。消費税の負担だけを見ると、しばらくは個人事業主のほうが有利な場面も残るため、「消費税目的の法人化」はこれまで以上に慎重に検討したほうがよいでしょう。
5. 手間とコストの違い
設立・維持のコスト
個人事業主 | 株式会社 | 合同会社 | |
|---|---|---|---|
設立時 | ほぼ0円 | 登録免許税15万円〜、定款認証手数料など(電子定款なら収入印紙4万円は不要) | 登録免許税6万円〜(定款認証は不要) |
毎年かかるもの | 特になし | 均等割(年7万円程度〜)、役員の任期ごとの変更登記など | 均等割(年7万円程度〜) |
やめるとき | 廃業届を出すだけ | 解散・清算の登記が必要で費用もかかる | 同左 |
自治体の「特定創業支援等事業」を利用すると、設立時の登録免許税が軽減されます。法人設立を考えているなら、お住まいの地域で対象になるか確認しておきましょう。
経理・決算の手間
個人事業主の確定申告は、帳簿をきちんとつけていれば会計ソフトや申告ソフトを使って自力で対応している人も多くいます。青色申告なら、要件を満たすことで最大65万円の青色申告特別控除も受けられます。
一方、法人は次のような点で難易度が上がります。
- 会社のお金と個人のお金を明確に分ける必要がある(社長が立て替えた経費、会社から社長への貸付なども記録が必要)
- 決算では、貸借対照表・損益計算書などの決算書を作成する
- 法人税の申告書は「別表」と呼ばれる書類が多数あり、個人の確定申告より格段に複雑
- 税務署だけでなく、都道府県・市区町村への申告も必要
法人の税務申告は税理士に依頼するのが一般的なので、そのための費用も見込んでおきましょう。
6. 経費・お金まわりの違い
法人ならではの制度として、次のようなものがあります。
- 役員社宅:会社が借りた住宅を社長に貸すことで、家賃の一部を会社の経費にできる
- 出張旅費規程:規程を整えることで、出張時の日当を会社の経費にでき、受け取る側も原則非課税
- 退職金:将来社長が退職するときに退職金を支払え、受け取る側も税制上優遇される
個人事業主でも、自宅の一部を仕事に使う場合の家賃や光熱費を「家事按分」で経費にすることはできますが、上記のような仕組みは法人のほうが使いやすいのが実情です。
また、赤字の繰越期間にも差があります。個人事業主(青色申告)は最長3年、法人は最長10年です。立ち上げ期に大きな投資をして赤字が出る事業ほど、この差は効いてきます。
7. 信用・事業展開の違い
税金以外で法人化を決める理由として多いのが、次のようなケースです。
- 取引先の大企業が、法人としか契約しない方針をとっている
- 人を採用する予定があり、求人や社会保険の整備で法人のほうが有利
- 投資家からの出資を受けたい(出資を受けられるのは株式会社)
- 共同創業者と一緒に事業をする
- 事業のお金と家計をはっきり分けて管理したい
逆に、こうした事情がなく、1人で身軽に始めたいのであれば、個人事業主から始めても不利になることはあまりありません。
8. 結局どっちを選ぶ?判断の目安
個人事業主から始めるのが向いている人
- 事業の利益がまだ読めない、あるいは当面は小さい見込み
- 副業として始める、まずは試してみたい
- 設立費用や毎年の固定費、決算の手間をできるだけ抑えたい
- 取引先から法人であることを求められていない
最初から法人で始めるのが向いている人
- 利益がある程度安定して見込めていて、個人の税率が高くなる水準に達しそう
- 取引先が法人との契約を前提としている
- 採用、資金調達、共同創業など、会社という「器」が必要になる予定がある
- 家族が事業に関わっていて、報酬を分散できる
「利益いくらで法人化?」の考え方
よく目安として「課税所得500万〜800万円あたり」と言われますが、これは社会保険料や役員報酬の設定、家族構成、消費税の状況などで大きく変わります。特に2026年は、消費税の2割特例終了と個人向け3割特例の新設で、前提が変わった部分もあります。
実際には、個人事業主として始め、利益が安定してきた段階で法人化(いわゆる「法人成り」)するのが王道のパターンです。法人化を考え始めたら、決算月の設定や消費税の課税期間まで含めて、税理士に一度シミュレーションしてもらうのが確実です。
9. 法人を選んだら、最初につまずきやすいのは「経理」
法人を設立すると、登記や口座開設などの手続きがひと段落したあとに待っているのが、日々の経理と初めての決算です。
個人事業主のころは年に一度まとめて帳簿をつけていた、という人でも、法人ではそうはいきません。役員報酬の設定には利益の見通しが必要ですし、会社と個人のお金の区別、決算書の作成など、日々の記録が正確であることが前提になるからです。
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- 内容を確認・承認すれば、そのまま会社の帳簿に
- 日々の記帳から決算整理仕訳、決算書の作成まで対応
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※KOZOTAIは税務申告・届出には対応していません。作成した決算書をもとに、税理士への依頼や税務申告ソフトをご利用ください。
初年度は無料、2年目以降も年間1,000仕訳以内ならずっと無料です。クレジットカードの登録も不要なので、会社を作ったら最初の1枚から始めてみてください。
まとめ
- 個人事業主は始めやすく身軽。利益が小さいうちは税金・社会保険・手間のトータルで有利になりやすい
- 法人は設立・維持のコストと経理の手間がかかるが、利益が増えると役員報酬の活用などで税負担を抑えやすく、信用や事業展開の面でもメリットがある
- 法人化は社会保険料を含めたトータルの負担で判断する
- 2026年は防衛特別法人税の開始(多くの中小法人は実質負担なし)、消費税の2割特例終了と個人向け3割特例の新設など、判断の前提が変わる年
- 迷ったら個人事業主から始め、利益が安定してきたら法人成りを検討するのが王道
どちらを選ぶにしても、日々の帳簿を正確につけておくことが、次の判断を正しく行うための土台になります。
本記事は2026年9月時点の法令・制度にもとづく一般的な情報です。税率や特例の内容は改正により変わる可能性があります。個別の判断については、税理士などの専門家にご相談ください。